降りていくブログ 

ここという閉塞から逸脱していくための考察

バイオハザード6 エイダ・ウォンを勝手に読みこむ

昨日の夜、連ツイしたものをまとめてみます。

 

バイオハザード6は、7年ぐらい前の作品のようです。アクションゲームが年々どうでもよくなっていて、いいストーリーのゲームはストーリーだけみせてほしい、と横着になっています。

 

そういう希望通りに編集してくれている動画もある様子。しかし、かなり長いようでまだ観ていません。

 

www.youtube.com

 

 

 

バイオハザード6、割りと否定的な感想が多い感じがしますが、エイダのストーリーはかなりすごいなと思いました。歴代のプレーヤーはキャラや言いまわしが今までと違うことへの違和感があったのかもしれないけど、僕はいきなり6から物語を知ったし、かつての姿への愛着もなく、ちょうどよかったのかなと思います。

 

僕の物事の基準は、自分に変容のプロセスをもたらすことです。ある作品が駄作と言われていようが、良作と言われていようが、自分にとって今までにないプロセスを引き起こすものであれば十分です。

 

作品の全体としての良さみたいなことも求めておらず、他の大部分が面白くなくても、一瞬でも自分の何かを変えるものがあればそれでいいと考えています。

 

更に、実際の作者の意図がどうかとかも評価の基準ではなく、たとえ全くの自分の勘違いの解釈であっても、自分に何かを引き起こせばいいと考えています。そもそもその引き起こしが稀にしかおきないですし、作品解釈や解説の仕事をしているわけでもなく、僕は自分が今いるところから出ていくというのがいつも目的だからです。

 

内的な自律性があり、それが展開すれば、そのきっかけはどのようなものでもいいという主義で、まあ一般的な見地からみればそんなあり方は貧困の極みでもあるかもしれませんが、いいのです。それほど沢山のことに自分が開かれているわけではなく、行けるところで行くだけと考えています。

 

さてエイダの話しにいきます。

 

アメリカの副大統領であり、世界を裏から支配する「ファミリー」の統括者であるシモンズは、エイダに出会い、彼女の天才性に自分と同じものみます。自らの天才性ゆえに同格者に出会えなかったシモンズの孤独の深さは、エイダと出会い、エイダに離れられたことによって狂気となり、暴走します。

 

常軌を逸したシモンズは、自分を慕う研究者カーラにエイダの遺伝子と変異ウイルスを注入し殺害してもう一人のエイダを作ろうとします。カーラの体はサナギとなり、そこからもう一人のエイダが生まれてきます。しかしその偽のエイダは、カーラの意識を一部とどめており、自分を見限り、裏切り、別の女にしたシモンズに復讐を誓います。

 

 

 

さて、シモンズがエイダを同格認識するということは、エイダのほうもシモンズと同じ孤独を生きてきたと想像されます。シモンズは強固な自我を持ちながらもその孤独に耐えきれず暴走してしまったわけですが、それと同程度の圧迫をエイダも持っているのだろうと思います。

 

エイダには「真の目的」というのがあるそうで、そのために全てのものを利用しているのですが、シモンズと同程度の孤独を抱え、また明らかに力を持つものに関わってそれを利用しているのだから、そんな可愛い目的ではないのでしょう。

 

同格、同族に出会えない孤独というモチーフは、松本大洋の『zero』や福本伸行の『アカギ』でもにも通じるところです。

 

 

kurahate22.hatenablog.com

 

 

 

そして、このストーリーを書く作者もまたそれを感じてきたのだろうなと思うのです。バイオハザード6は、かなり挑戦したのだと思います。

 

スケールを大きくしたこととゲームのバランスがあわないというような批判もあるようですが、作者は自分のこれまでの生を凝縮させてこの物語に載せたような作品だったのではないかなと思うのです。全く僕の頭の中だけの推測ですが。

 

シモンズを倒した後のシーンで、エイダはカーラの研究室におもむき、そこでカーラが自分のペットとしてのシモンズのコピーを育成しているところに直面します。

 

そこで、エイダはWe're beyond sympathy at the point. と言っています。日本語字幕は、「もう同情してあげる必要はなさそうね 」。

 

エイダが自分に汚名を着せ、殺そうともしてきたカーラへの同情を捨てるのは本当に最後の最後なのですよね。どんな奴でも利用するエイダが、なぜカーラにはそこまで共感を寄せていたのでしょうか。

 

そこにはやはりカーラの深い孤独というものがあるのだと思います。この物語のなかには、自分と同じ天才性をエイダにみて暴走をはじめてしまったシモンズの孤独があり、そしてまた思慕していた相手に裏切られ、見捨てられ、自身の尊厳を完膚なきまでに否定されたカーラの孤独があります。

 

天才であるエイダもまた自らを破滅に導くような孤独を抱えていたのだと思いますが、エイダはシモンズのようにそれを暴走させることなく、その孤独の破壊性や圧力とわたりあってきたのでしょう。その意味では、エイダは自分に去られたぐらいで簡単に壊れるシモンズよりもよっぽど、幻想に依らない厳しい現実を見て、そこに向き合ってきたのだと思います。

 

シモンズも天才性からくる孤独はあれど、はじめから権力組織の後継者としてのレールにのってきたのだから、その部分では、おそらくそんな恵まれたところで生まれてきていないエイダにとっては全然甘いのではないでしょうか。シモンズの孤独など共感に値する水準には至らなかったのではないかと思います。

 

ですが、カーラの救いようのない孤独は、エイダの心を動かしたのだと思います。カーラの生きるあり様は、エイダが抱えてきた孤独の深さと相応するものとしてエイダには感じられていたのではないかと思うのです。自分が感じてきたような巨大な孤独をカーラが抱えていたと。

 

カーラは暴走した精神状態で、世界を破滅させて、変異した自分が女王エイダ・ウォンとなるのだと叫んでいました。シモンズを憎みながらも、エイダでないとシモンズに愛されることはないという分裂はおぞましくも悲痛でした。

 

カーラの孤独は、世界を破滅させるほどでないとつりあわないほど深いものでした。そしてカーラは世界を破滅させるほどではなかったにせよ、大規模なバイオテロを引き起こしました。カーラのその強烈な姿はエイダにとっては、まだ自分が表現していない、もう一つの可能性としての自分であったのだと思います。

 

しかし、エイダは最後にカーラに失望し、苛立ちと悔しさをあらわにします。カーラが自分の思い通りのシモンズを作ろうとしていたのを知るからです。それは、カーラに自分を投影してしまっていたエイダにとっては、裏切りと感じられたのではないでしょうか。

 

シモンズを自分のものにして満足できるような、卑小でくだらない心性。結局誰かにすがる自己放棄。それはエイダにとって侮辱に近いものとして感じられたのではないかと思います。エイダの怒りは、誰かを犠牲にしてコピーを作るというカーラの非人道性に対してのものというよりは、シモンズのコピーを作るぐらいのことで収まりがつくような「偽物」の孤独と自分の孤独とを、たとえひと時であっても同一視していた自分の認識に対してのものだったのではないでしょうか。

 
ラストのエイダの感情表現は激しいものでした。エイダはスマートに研究室を破壊するのではなく、火を被りそうなほど間近で、息を乱し、顔を歪めながら研究室の薬品やコンピュータを破壊していきました。

あの感情は、一瞬でも自分と同一視した者がまるでそうでなかったという裏切りへの怒り、そしてそれを期待し突き放された自分の惨めさに直面した悔しさだったのではないかと思います。

 

エイダは、自分は巨大な孤独を乗りこなし、冷静に支配していたと認識していたのだと思います。エイダ自身によって隙なく作り上げられ完成したエイダ・ウォン

 

それはおそらくかつての忸怩たる思いから始まっていたのだと想像します。そしてエイダは自分ではそのようなかつてを乗り越え、かつての自分はもはや存在しないものと思っていたのではないでしょうか。

 

しかしカーラに自分を投影していたことで、自分はまるでかつてと同じであり、今もその孤独に呑み込まれ、傷を痛んでいるのだと認識したのだと思います。地に落ちたプライド。それがカーラの研究室を破壊するエイダのなかでおこっていたことなのではないかと思うのです。

 

 

3/16追記:

バイオハザード、脚本が誰だろうと思って動画をみていると、SHOTARO SUGAとHIROSHI YAMASITAとある。

 

検索するとまず一人がわかった。

 

菅正太郎(すが しょうたろう、1972年12月31日 - 2015年3月19日)は、日本の脚本家。東京都出身。菅 正太郎(すが しょうたろう、1972年12月31日 - 2015年3月19日[1])は、日本の脚本家。東京都出身。

 

 

とある。2015年に42歳亡くなっている。追悼のサイトもあった。

 

sikyo.net

 

菅正太郎さんが外部の脚本家で、山下宏さんが発売元であるカプコンの人らしい。山下さんが、外部のライターを交えてシナリオを構築し、スクリプトも全部担当しており、山下さんはシナリオのために400時間以上のミーティングを重ねたとのこと。

 

dengekionline.com

 

上記リンク、惜しむらくはエイダ編への言及が少ない。エイダの作り込みは山下さんがやったのだろうか?