降りていくブログ 

ここという閉塞から逸脱していくための考察

「生きている喜び」と「生きていく喜び」

ふと思ったのだけれど、「生きている喜び」と「生きていく喜び」は違う。前者は今のあり方、このプロセスのなかにあること自体を喜んでいるのだけど、後者は今のあり方や状態が次につながっていくことや継続することを想定した喜びなのだ。

 


「生きていく」ということは、生きものは次の瞬間死んでいるのかもしれないのだから想定としてしか存在しない。だがその想定の世界を前提としてできているのが人間の社会。明日のためというフィクションに対して,強迫的な蓄積や労苦が、現実として存在する今を圧迫するという本末転倒が必然的におこる。

 

もし明日を仮定せず、今しかないのなら、刹那的に生きる、自暴自棄に生きるという反動がおきると思われるかもしれないが、その自暴自棄とか刹那的とか、他とのものの関わりの文脈を意図的に無視して生きるということができるのなら、それ自体が明日を仮定した上で成り立っている行為なのであって、結局何十年後のために生きているか、何分とか何時間後の未来のために生きているかという違いでしかなく、未来に圧迫され、強迫されていることに変わりないし、むしろより重圧に耐えかねているということなのだと思う。

 

「生きている喜び」がどちらかというと生きものとしてのリアルであって「生きていく喜び」というのは、人間がお互いの約束や申し合わせでつくった人工的な喜びだ。だが社会は明日を前提としているフィクション。とりあえず「そういうこと」にして出来上がっている演劇の世界だ。この演劇の世界が作り上げられているなかで生きるのだから、その方式でも生きのびる必要がある。

 


意味というのは、未来から見た今の有用性。そしてそれは人と人の間の申し合わせによって成り立っているのだから、人と人の間ではない、その外の世界では関係ない。人の思考は人と人の約束で生きていたとしても、体はその限りではない。つまり人は、自分たちで申し合わせてつくった約束の世界とそれが通じない世界の2つの世界に生きている。そしてどちらかというと、人と人の間のことは、その外部の世界から見れば取るに足らない、ふけばとぶようなものでしかない。外部の世界のほうが、人と人の間の世界より大きくあり、それが生を包みこんでいる。

 

生きていることの不条理は、そのような外部の世界と直面し、人と人との間の約束の世界の理屈が通じないことにさらされることによって感じられると思う。人と人との約束とはつまるところギブアンドテイクであり、そのギブアンドテイクによって保障されないとき,何かをギブ(あるいは放棄・喪失)したのにもらえない(テイク)じゃないかとうけとるのが、不条理感ややってられない感じだ。何かをやること、何かであることがテイクできる保障であり,それだからやっていたのに、というわけだ。

 


人間が保障や埋め合わせできることには限界がある。人間は人間からみて不条理な世界のほうに結局は大きく影響される。そのことに対して、なるべく自分が奪われてしまったり、飲み込まれてしまわない妥当な距離感をもつことができるのか。

 

距離感とは感覚としての「リアリティ」だ。あの話しはリアリティがあるね、というときのリアリティ。それは現実のありように気づくことによって変化させていくことができる。人と人の間の約束の世界が現実なのではなくて、それを包み込み成り立たせている外部の世界,意味のない世界が現実なのだと。

 

人と人の約束に同一化した心を解いていく。それは反社会的になるということではなくて、ギブアンドテイクがないからやってられないという、人と人の間のことを生きることにあてはめようとすることから抜け出ていくこと。気づくことによって、心は明日への強迫に対しての反応をしぼめていく。そのことによって、矛盾するようだが,この演劇の世界、想定の世界で生きていく余裕ができる。明日への強迫が生を圧迫し,生きるあり方を狭め、心の苦しみを生むものであったから。

 

「生きている喜び」はたどり着くものではない。それは常にあるところから別のところへ行く過程、道中において派生的に生まれる。それ自体を目的化することができないもの。にもかかわらず、それを生の軸におくことができる。目的のための道中ではなく、道中のための目的なのだとすることができる。目的を副、道中を主とする。しかしこのとき設定する目的もそれはそれで成り立つ必然が必要だ。のぞむ道中が成り立つためには、目的も吟味され検討される必要がある。すると、見かけ上は目的を主としているように見える。しかし心の重心は、道中のほうにある。目的に今が奪われておらず、目的はその際に利用する媒体にすぎない。

 

 

※道中のデザインというテーマは以下の記事でも取り扱いました。

 

kurahate22.hatenablog.com

 

 

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